訪問診療について相談を受けるとき、ご家族からよく聞くのが、まだ早い気がします、もう少し様子を見てもいいでしょうか、という言葉です。ですが実際には、もっと早く相談しておけばよかったと言われることも少なくありません。訪問診療は、最終段階になってから使う医療ではなく、自宅や施設で安心して過ごすために早めに取り入れる医療です。
外来にギリギリで通えているうちは必要ない、なんとか頑張って通えているから大丈夫と思われがちですが、通院そのものが少しずつ負担になっている時点で、すでに一つのタイミングかもしれません。歩くのが大変になってきた、待ち時間で疲れてしまう、薬の管理が難しい、食事や水分が減ってきた、転倒が増えた、夜間の不安が強くなってきた。このような変化は、訪問診療を考えるきっかけになります。病気の重さだけでなく、生活のしづらさを見ることがとても大切です。
特に高齢の方では、肺炎や心不全、認知症、がん、脳梗塞後遺症、パーキンソン病など、いくつもの病気を抱えながら生活していることが多くあります。そのたびに別々の医療機関に通うのは、ご本人にもご家族にも大きな負担です。訪問診療では、定期的に医師がご自宅や施設へ伺い、体調の確認、薬の調整、療養方針の相談を行います。私自身も、訪問診療に入ると、不要な薬や重複しているような内容の薬剤を目にすることは多いです。しっかり主治医を決めて、薬の整理もしてもらうといいと思います。必要時には訪問看護やケアマネジャー、薬剤師、病院とも連携しながら支えていきます。家で過ごしたいという思いを支えるには、こうしたチームの力が欠かせません。
ご家族が迷いやすいのは、まだ入院するほどではないし、救急車を呼ぶほどでもない、でも何となく心配、という時期です。実はこの時期こそ、訪問診療が力を発揮します。急に状態が悪くなってから初めて相談するより、普段から診ている医師がいる方が、いざという時の判断が早くなります。病院へ行くべきか、自宅で様子をみられるか、どこまで治療を希望するか。こうした大事なことを、落ち着いて話し合えるのも訪問診療の大きな役割です。
また、ケアマネジャーさんや病院の相談員さんからのご相談で多いのは、退院後の生活が不安というケースです。退院できる状態ではあっても、家族の介護負担が大きかったり、医療処置が必要だったりすると、外来通院だけでは支えきれないことがあります。そうした時に訪問診療が入ることで、退院後の生活がぐっと安定することがあります。退院前から相談しておくと、必要な準備も進めやすくなります。また、必要であれば、退院後2週間は特別訪問看護で毎日医療で訪問看護が利用できる制度もあります。有効活用し、退院後の生活をチームで支えていきます。患者さんにとっても長期入院は、筋力低下や認知症が進行してしまいます。できるだけ入院となった疾患が治療できたら早期退院をおすすめします。
訪問診療は、何かが起きてから始めるものではなく、何かが起きても慌てないように準備する医療です。まだ早いかなと思う段階でも、相談だけしておくことには大きな意味があります。実際に始めるかどうかは、その後に一緒に考えれば大丈夫です。無理に導入するものではありませんが、知っているだけで選択肢が広がります。当院ではソーシャルワーカーもいますし、電話やLINEなどで相談できる窓口もあります。
通院が大変になってきた方、自宅や施設での療養に不安がある方、退院後の医療体制を整えたい方は、早めの相談がおすすめです。訪問診療は、ご本人の安心のためだけでなく、支えるご家族の安心のためにもあります。家で過ごす時間を、その人らしく支えていくために、私たちは日々診療しています。